初めて陸に上がった魚の見た空は…?

好きなことを好きなだけ

#アンフェお焚き上げ

16th LIVE CIRCUIT “UNFADED”がついに幕を閉じた。


単発ライヴ(ロマンスポルノ)やアルバムを引っさげたワンマンツアーと比べればマイナーな曲や選ばれにくいであろう曲が多く、ファンが歓喜に湧いたセトリではあったものの、
「この曲が聴きたかったな」
「あの曲をやってくれると思ったんだけど…」
と、ちょっとしたささくれが残った方もいるだろう。
なにせ、アルバムを引っ下げることのないツアーなどそうそうありはしない。
「ここで聴けなければ一生聴けないような曲をやるのではないか?」
そういう思いや期待を持って参戦したツアーではあった。
(全楽曲が全部横並びって言ってたけど、選ばれたのはファン人気曲多かったよねっていうのはひとまず置いておこう)

今回はUNFADEDで選ばれることのなかった悲運の曲たちを紹介することにより、私的なお焚き上げを執り行いたい。
「だから東京ドームではやってくれるといいな」という記事ではない。これは神聖なお焚き上げである。
では、どうぞ。


サボテンsonority

『サボテン』収録。歌詞とアレンジが異なるバージョン。
本家本元のサボテンと世界観を同じくする楽曲だが、歌詞が「過去形」で描かれている。
なので切なさが5割増。
「どんな言葉待ってるの?」は
「どんな言葉待ってたの?」だし、
「やわらかい棘が刺さる」は
「やわらかい棘が残る」だし、
「今ごろ…痛い」は
「今でも…痛い」だし、
「僕らもっとうまくやれるはず」は
「僕らもっとうまくやれたはず」だし、
小さな花は「咲かそう」じゃなくて「見せたい」。
過去形であるがゆえもう元には戻ることのないものへの悔恨や、諦めきれない執着や…シングルver.のパラレルワールドが歌われている。
夏の雨に打たれて聴くのが最高だったから、冬のツアーでこっちのver.を聴きたいこの気持ち。冬に切ない思いをしたいこの気持ち。
サボテンは知名度があるのでセトリに入れるなら無印のサボテンに決まってるし、ver.違いのカップリング曲なんて喜ぶのはファンだけだとはわかっているが希望を捨てきれなかった。

PRIME

ミュージック・アワー』収録。Tama氏作曲、昭仁氏作詞という珍しい組み合わせの楽曲。
この曲が聴きたかった理由はただひとつ。
私まだライヴで聴いたことない
以上。
…というのも本当だが、ちょっとスイングしたジャズっぽいオシャレなメロディに、もう手足投げだしたみたいなうだるような歌詞がくせになる楽曲で、ライヴで聴いたらさぞかし夢みたいな心地になれるだろうと思う。
朝の通勤時間帯の「あー仕事行きたくなーい」という時に聴いて無理やりエンジンをかけようと試みることもしょっちゅうである。
なぜ選ばれなかった…

別れ話をしよう

『アゲハ蝶』収録。
存在感の強い同カップリング曲『狼』の隣で今までさぞかし肩身の狭い思いをしていた曲であろうが、サブスクになってしまえば関係ない。
バーに恋人を呼び出して別れ話をしようとする…というありふれた情景の中、男の未練や後ろ髪引かれる感情の揺れを表現しきった名曲である。
「この煙草を消したら 席を立とう」
「この氷溶けるまで 恋人でいようよ」
別れ話を切り出すのはこの男の方なのに…勝手だと理解しつつも、別れたあとの恋人がいつか違う誰かのものになることを厭う気持ちからずるずると逢瀬を引き伸ばしていく。結局バーボン2杯目飲んでるし。
この曲を初めて聴いた2001年当時は「なんて女々しい男なんだろう」という感想しかなく、共感も何もなかった楽曲なのだが…年月というのはすごいもので、歌詞の節々に現れる感情の振り幅を楽しむことができるようになった。
そのため今聴きたかった楽曲ではあるが、たぶん暗すぎるから選ばれなかった。

君へのドライブ

『幸せについて本気出して考えてみた』収録。
歌い出しから「魔がさしただけだよ ちょっと」という浮気なフレーズで、車で彼女の元へ謝りに向かうというシチュエーション…とだけ言うとものすごく情けないのだが、
曲が進むうち、彼女がテクノ好きだからいつもBGMは自分が好きなBBキングはかけないだとか、
ひたむきに車を走らせる様子だとか、
こいつ根はいい奴だな…?と思わせる何かがある。
強引に持って行ってしまうメロディの力もあり爽快に聴ける楽曲。
しかし拳を振り上げてノレる曲だというのに、ライヴでの登場回数がとみに少ない。
09’の東京ロマンスポルノが今のところ最後の披露となっているので、そろそろ聴かせてくれてもいいのではと思っていた。


グラヴィティ

『m-CABI』収録。
ファンタジー色の強い楽曲で、
「銀の空中ブランコは 夜空に弧を描き消える」
「ねぇ 三日月ライトをそっと消したら」
等、晴一氏の幻想的な言葉選びが印象的。女性視点の歌詞だが、珍しいことに失恋もしておらず不倫もしておらず、清らかなイメージだけがふわりと香る。
いしいしんじ著『ぶらんこ乗り』にインスパイアされて生まれた楽曲なので、この曲をかけながら読むのもまた一興ではある。が、ライヴでしっとり聴きたい頃合ということで。

Stand for one's wish

曲名を見て「えっ、こんな曲あったっけ??」と思った方、正直に挙手してほしい。『リンク』の収録曲である。
UNFADEDツアーでの昭仁氏のMC曰く、
「この機会にサブスクで自分たちの曲聴き直してみたんじゃけど、3回聴いても『これ、なんじゃったっけ…レコーディングの時のことが全く思い出せんわ』みたいな曲もあって。5回聴いて『ああ、この時こうだったな』って思い出せたくらい…」
(1/31幕張公演、弾き語りコーナーにて)
とのたまっていたが、それたぶんこの曲。下手したら5回聴いても思い出さなかったのではと思うくらい存在感が薄い。
詞曲は昭仁氏。ともすれば青臭すぎる歌詞がメロディのおかげで全然気にならない。
疾走感あるキャッチーなメロディで、もうちょっとアレンジをなんとかすればアニメのEDテーマぐらいには据えられそうなポテンシャルがあると勝手に思っている。
こんな機会でもなければ思い出されもしない曲だと思って今回は披露されるかとこっそり思ったが、
やはりなかった。

ナイトトレイン

痛い立ち位置』収録。
シャッフル再生中たまにかかるとイントロのギターリフがあまりに格好よくてびっくりしてしまう楽曲。ギターソロもめちゃくちゃ格好いい。
ナイトトレインという言葉からは「銀河鉄道の夜」がイメージされるが、こちらは貨物列車。乗りはするけれど。
ファンタジック一辺倒になってしまいそうなモチーフが、晴一氏に書かせるとこうも印象の違うものにできるのかとリリース当時感心してしまった楽曲。
そろそろサビ終わりのシャウト(格好いい)を聴かせてほしかった。

LIVE ON LIVE

『EXIT』収録。
音源の初出はライヴDVD『"BITTER SWEET MUSIC BIZ" LIVE IN BUDOKAN 2002』のエンドロール。その後『ターゲット』のアンコール公演にて初披露され、ライヴ音源が収録された。スタジオ音源が渇望される1曲。
〈スタジオ音源収録→ライヴ披露〉もしくは〈新曲としてライヴ披露→音源収録〉という過程を経る多くの楽曲とは異なる珍しい出自をもつ楽曲。
まさにライヴでの真価が問われる、ライヴにふさわしい曲であるといえる。
珍しい出自ゆえかライヴでは3回しか披露されたことがない不運の曲であるので、この機会にスポットが当てられるのではとかすかに期待していた。



私的なお焚き上げは以上である。

なお、この曲たちが選ばれなかったからといって、聴きたかった曲が聴けなかったからといって、今回のツアーがUNFADEDでなかったわけでは決してない。
“UNFADED?”
“UNFADED!”
人には人のUNFADED、さまざまな思いはあれど、誰の目にも“色褪せない”景色が見えたことだろう。